チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」Op.20より
P.I.Tchaikovsky:"Swan Lake"Op.20
言わずと知れたロシアを代表するロマン派の巨匠、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー。彼の代表作である3大バレエ音楽(「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「眠りの森の美女」)は、どれも単なる踊りの「伴奏」を超え、音楽だけでも十分な迫力と説得力を持っています。そのため彼以降、バレエ音楽が純粋に「音楽」としてバレエ公演のみならずコンサートで単独に取り上げられる機会も珍しくなくなりました。
さて、「白鳥の湖」で最も有名な曲は、何を置いてもハープの伴奏に乗ってオーボエがあの哀愁を帯びた旋律を奏でる第2幕冒頭の情景(No.10、組曲では1曲目)なのですが、残念ながらこの曲など一部の「有名どころ」は本日演奏いたしません。そのかわり今回は、全29曲より普段あまり演奏されない隠れた名曲を中心に7曲をセレクトしてありますので、以下ストーリーを追いつつお楽しみいただければと思います。
1 序奏
物語の悲劇を予感させる、短い前奏曲です。熱く盛り上がった後潮が引くように静かになり、やがて幕が開いて次の曲に進みます。
第1幕 城の前の庭園
2 情景(No.1)
明日はジークフリート王子の成人式。そしてその夜、舞踏会で妃を選ぶ段取りになっています。城の外からは村人たちが口々に「おめでとう!」という声が聞こえてきます。ジークフリートはそれを聞いて嬉しい反面、「これで自由な独身生活も終わりかぁ…」という思い、さらには「明日、果たして自分のタイプの女性と出会えるだろうか…」という不安が交錯し、だんだん憂鬱になってきました。
3 ワルツ(No.2)
村の若者たちはジークフリートの成人式の前祝いということで、城の前で踊り始めます。しかし、当のジークフリートは相変わらず冴えない表情のまま。そこで村の若い衆はジークフリートを白鳥狩りに誘い、彼も「まぁいいか」と弓矢を持ち、とりあえず出かけることにしました。
第2幕 山を背にした湖のほとり
4 白鳥たちの踊り:序奏〜4羽の白鳥の踊り〜コーダ(Nos.13-1,4&7)
湖面を泳いでいる白鳥たち。その中で王冠をかぶった白鳥がオデットです。ジークフリートはあまりの白鳥の美しさに、弓を射るのも忘れて見とれてしまいます。そして湖畔に着いた白鳥は次々に娘の姿に変身して可憐な踊りを始めたのだから、仰天です。オデットも一際美しく気品ある王女の姿になり、ジークフリートのそばに寄ってきました。どぎまぎするジークフリートに、彼女はこう哀願してきました。「夜だけは人間に戻れるんです。ロッドバルトという悪魔がいて、普段は魔法のせいで白鳥の姿にさせられています。魔法を解くには、愛の力が必要なんです…」ジークフリートは即座にオデットの手を取り、言いました。「君と結婚したい!明日舞踏会に来てくれ!必ず君を選ぶ!」オデットはプロポーズの言葉に顔を赤らめ、頷きました。そして宴が始まり、娘たちの祝福の踊りが夜すがら繰り広げられるのです。
5 情景(No.14)
もうすぐ夜が明けます。悪魔ロッドバルトが現れて、楽しかった宴もやむなく中断、撤収です。オデットや娘たちは再び白鳥の姿に戻され、湖に戻っていきます。名残惜しそうなオデットの淋しい後ろ姿で、幕切れとなります。
第3幕 舞踏会の会場
6 ハンガリーの踊り(チャルダーシュ)(No.20)
ロシア人であるチャイコフスキーが、ハンガリー舞曲を書きました。チャイコフスキー特有の深さと熱さに、農民舞曲の奔放さがプラスされた傑作です。そして本日のマエストロはこの曲に、徹底したジプシー音楽風の解釈を施しました。果たしてマエストロの指示どおり、血が沸き踊るようなハンガリー舞曲になるでしょうか。今回の「白鳥の湖」の中でも最大の聴きどころでしょう。
第4幕 湖のほとり(第2幕と同じ)
7 終曲(No.29)
ロッドバルトの陰謀により、オデットになりすました黒鳥オディールが舞踏会に送り込まれ、ジークフリートは間違えてオディールと婚約してしまいました。それを知った傷心のオデットは湖へ帰り、人間に戻れないことを嘆き悲しみます。しかしそこに、陰謀を見破ったジークフリートが駆けつけてきました!誤解は解かれ、ジークフリートとオデットは力を合せて戦い、遂に憎きロッドバルトにとどめを刺します。しかし白鳥のままのオデットは同時に魔法を解くすべを失い、人間としてジークフリートに寄り添うことは永久にできなくなりました。オデットは我が身を悲観し、湖に身を投げます。ジークフリートも後を追います。するとどうでしょう!魔法が解けてオデットはもちろん全ての白鳥が人間の姿に戻りました。そして2人は…天国にて、永遠に結ばれたのです。
実は先ほど、ひとつだけ嘘を書いてしまいました。
確かにオーボエで有名な第2幕の情景(No.10)は今回採り上げませんが、その代わりに第2幕の終曲(No.14)を演奏いたします。でもこれって、実はNo.10と全く同じ曲なんです…。
(1998.7.25)