リヒャルト・シュトラウス:管楽器のためのソナチネ第番ヘ長調『傷病兵の仕事場より』

R.Strauss:Sonatine for Wind-Instruments No.1 in F-major, "From an Invalid's Workshop" 


今年が生誕150年に当たるリヒャルト・シュトラウス(18641949)。交響詩や舞台音楽、あるいは歌曲を中心に多岐にわたる作品を残していますが、その多くは曲のジャンルごとに作曲時期が集中しています。例えば協奏曲や室内楽曲はまだ売り出し中の10代に、『ドン・ファン』(1888)から『英雄の生涯』(1898)へ至るほぼすべての交響詩は20代から30代にかけての若さあふれる時期に、『サロメ』(1905年)や『ばらの騎士』(1910)、『カプリッチョ』(1941)などのオペラは働き盛りから円熟期に至る間にそれぞれ作曲されています。そして晩年はオーボエ協奏曲(1945)や本日演奏する16管楽器のためのソナチネ第1番(1943)など、管楽器のための作品の多くが生み出されています。
 当時シュトラウスは第2次世界大戦の戦乱を避けてドイツ南部のオーストリア国境に近いガルミッシュの山中にある別荘に籠り、作曲の筆を進めていました。その際、かつてモーツァルトの『グラン・パルティータ』などの大規模な管楽合奏曲の影響を受け、自身も畏敬の念を込めて13管楽器のためのセレナーデや組曲を作曲した青年時代に立ち返り、再び大編成の管楽合奏のための曲を作ることを思い立ちます。編成はセレナーデや組曲で使用した13本の管楽器(フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ファゴット2、ホルン4、コントラファゴット1)にC管のクラリネット、バセットホルン、バスクラリネット各1を加え、最高音と低音を増強することで響きに豊かさを醸しだしています。そして他の最晩年の作品と同様、シュトラウス独特の対位法を駆使したきめ細かい音の綾や目まぐるしい転調といった特徴はそのままに、かつてオペラや交響詩で縦横無尽に登場していた生々しい描写やおどろおどろしい表現は影を潜め、約40分の演奏時間中、平穏で美しいメロディが何度も浮かびあがってくる作品となっています。
 なおタイトルにある『傷病兵の仕事場より』とは、ガルミッシュの山中で療養生活をしていたシュトラウスが自身を自虐的に表現したもので、その後同じ編成で1945年に作曲されたソナチネ第2番(管楽器のための交響曲)『楽しい仕事場より』と対になっています。

1楽章 アレグロ・モデラート
シュトラウスらしい伸びやかな主題を中心とした、展開部が拡大された自由なソナタ形式による楽章。

2楽章 ロマンス〜メヌエット:アンダンテ
3拍子のメヌエット(舞曲)を間に挟んだ緩徐楽章。

3楽章 フィナーレ:モルト・アレグロ
様々な主題が交互に現れる、ロンド風の快活な終曲。

2次世界大戦が終わってドイツは敗戦国となり、ナチス政権下で第3帝国音楽局総裁の要職に就いていたリヒャルト・シュトラウスは、ナチスに協力したとして連合国側の軍事裁判にかかりますが、最終的に無罪となります。
 そりゃそうですよね。ナチス・ドイツに心酔して盲従した人から、しかも戦争の最中に、これだけ平和で純粋で美しい作品が生まれるわけがないのですから。 

(2014.8.9)



もとい