プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」Op.64より

S.Prokofiev:"Romeo and Juliet" Op.64〜Exerpts


 今年はモーツァルトの没後200年にあたります。巷では「アマデウス」だらけですが、ちなみにセルゲイ・プロコフィエフ(1891〜1953)の生誕100年でもあります。モーツァルトに比べると記念行事も少ないようですが、今回当オーケストラではそれを記念してプロコフィエフを採り上げることとしました。
 彼の音楽の持つあの独特の鋭角的なリズム感覚、あるいは思わずハッとさせられてしまうような瑞々しいリリシズムといった特徴は数多くの舞台作品、なかんづくバレエ音楽においてその本領をいかんなく発揮しています。本日演奏する「ロメオとジュリエット」は、チャイコフスキーのバレエ曲同様、上演にたっぷり一晩かけるロシアの「シンフォニック・バレエ」の形式を踏襲した最初の作品で、その美しさと迫力により、彼の代表作といわれています。
 「ロメオとジュリエット」は言うまでもなくシェイクスピアの戯曲ですが、このタイトルまたは題材を使用して、実に多くの作品が誕生しています。例えばチャイコフスキーの幻想序曲。ベルリオーズの劇的交響曲。グノー。ディーリアス。バーンスタイン等々。それらの中でもプロコフィエフのそれは最も原作に近いものと言えましょう。但し登場人物についてはかなり整理され、かつロメオとジュリエットの悲劇よりも両家のいがみ合いが最重要テーマとして印象づけられるように音楽が構成されています。(最も「死んだ人は踊れないから」悲劇転じてハッピー・エンドとする話もあったらしいですが)
 バレエの全曲初演は紆余曲折の末1938年にチェコスロヴァキアのブルノにて行われ、1940年にはソヴィエト国内初演がレニングラードにて成功します。その最に若干の補筆改訂が伴い、こんにち数種類の異版が存在する原因となっています。
 なお本日使用する楽譜は実際に劇場で使用する楽譜とほぼ同じもので(組曲等で聴きなれているものとは曲構成やオーケストレーションがかなり違います)、全52曲の中から10曲が抜粋されています。以下、各曲ごとに場面の説明をしてありますので、そちらでストーリーを追いつつお楽しみ下さい。
(タイトル中"(No. )"で示したものは原曲の通しナンバーです)

1 第1幕への前奏曲(No.1)
 ロメオとジュリエットの「愛」の場面に出てくる3種類の旋律で包まれています。それでいてどこか悲劇の予感が・・・・

2 騎士たちの踊り(No.13)
 第2組曲の1曲目「モンターギュ家とキャピュレット家」。バレエではキャピュレット家の舞踏会に仮面で変装して忍び込んだロメオが見た光景。ヨロイを来て威圧的に踊る騎士達(弦楽器とクラリネット)、続いて貴婦人の踊り(コルネット・ソロ)、紳士の踊り(フルート・ソロ)、そして嫌がりつつも健気に踊っているジュリエット(オーボエ・ソロ)を見つめるロメオ。彼女の姿は人混みの中に消えて・・・・

3 マーキュシオ(No.15)
 ロメオと一緒に、仮面を着けて舞踏会にまぎれ込んでいる友人マーキュシオ。ジュリエットに見とれて呆然としているロメオに、お構い無しに盛んに冗談を飛ばしています(こういう人っていますよね)。

4 バルコニーの情景〜愛の踊り(Nos.19&20)
 舞踏会の終わったキャピュレット家。今さっき出会ったばかりのジュリエットのことが妙に気になるロメオは思わずキャピュレット家に引き返し、バルコニーに出てきた彼女と鉢合わせになります。バレエ全曲の中で最も幸福な瞬間、前半のクライマックス。まあ、あとはお2人でごゆっくり。ごちそうさま。

5 フォーク・ダンス(No.22)
 第2幕は民衆のお祭り騒ぎの中で物語が進行していきます。着飾った男女が、踊りに興じております。

6 民衆のお祭り騒ぎ(No.30)
 「お祭り」も大分ボルテージが上がってきております。さて、2人は今ローレンス僧の下で密かに結婚式を挙げました。すると民衆の騒ぎ声も、彼らを祝福する声に聞えてくるから不思議です。

7 第2幕の終曲(No.36)
 ふとしたことで又しても両家の間で諍いが始まります。タイボルトとマーキュシオはロメオの制止にも関らず戦い始め、マーキュシオは刺されて息絶えます。親友を失ったロメオは激しく剣を交えたのち、遂にタイボルトを刺し、仇を討ちます。キャピュレット家の人々は復讐を誓いつつ、タイボルトの遺骸をを運んで行きます。いわゆる第1組曲の終曲「タイボルトの死」の場面です。因みに組曲版の前半にあたる決闘シーンは曲自体も大変スリリングで聴かせどころなのですが、今回は残念ながらカットされております。

8 第3幕への前奏曲(No.37)
 大公の威厳を表す主題で構成されています。音響的にも大変凝っています。
 大公はロメオに、ヴェローナを去るよう申し渡します。

9 ジュリエットの葬式(No.51)
 以下2曲は「第4幕」あるいは「エピローグ」と呼ばれています。
 もちろんこの時点ではジュリエットは薬を飲んで仮死状態になっているだけで、実際は死んでいません。何とかしてロメオと一緒になれればという苦肉の策です。ジュリエットの「葬列」は続き、墓の中に安置されます。そこにマントーヴァから帰ってきたロメオが現れ、ジュリエットの変わり果てた姿に呆然とします。そしてロメオはためらうことなく、その場で命を絶ちます。

10 ジュリエットの死(No.52)
 ジュリエットの意識が戻ります。目の前にロメオが、それも死んでいることに気がつきます。ついに悲劇が起こってしまいました。もちろんその後を追わないことはありません。ジュリエットはロメオの短剣を自らの胸に刺し、ロメオを抱擁しつつ死んでいきます。
 両家の人々がどちらからともなく歩み寄ってきて、幕となります。
 

(1991.6.30)
 
 


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