ドビュッシー:小組曲

C.Debussy:Petite Suite 


 クロード・ドビュッシー(18621918)の曲と言えば、何かもやもやした、捉えどころのない音楽というイメージを持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかしお聴きになればおわかりの通り、この『小組曲』の原曲は、まだ印象派の作風を確立する前の、素朴で平易なピアノ曲です。オリジナルのピアノ曲はドビュッシー自身とジャック・デュラン(後にこの曲を出版するデュラン社の御曹司)の連弾で1889年に初演されました。本日演奏する管弦楽版はドビュッシーの友人アンリ・ビュッセルにより編曲されたもので、原曲の持つ無邪気で親しみやすいメロディと、『海』や『イベリア』を彷彿とさせる華やかで色彩的な響きが共存していることが大きな魅力となっています。

1曲 小舟にて(En Bateau
 タイトルの『小舟にて』はフランスの詩人P.ヴェルレーヌの『艶なる宴』中の同名の詩から採られています。弦楽器とハープのさざ波に乗ってフルートソロがバルカロール(舟歌)を歌い、途中大波が来て船が一瞬揺れますが、やがてもとのさざ波に戻って平穏に終わります。主部へ戻る直前のオーボエやフルートの旋律は、後にドビュッシーのトレードマークとなる「全音音階」を先取りしています。

2曲 行列(Cortege
 1曲同様、タイトルは『艶なる宴』中の、優雅に行進する貴婦人を描いた詩に由来しています。ドレスの裾を持ち上げている付き人たち、ペット(猿)の鳴き声などが軽快なタッチで描写されます。少し物憂げで甘えるような中間部を経て再び行進が始まり、道行く人々の歓声の中で賑々しく曲を締めくくります。

3曲 メヌエット(Menuet
 古き良き時代を彷彿とさせるどこか懐かしいメヌエットの主題は、ドビュッシーの旧作の歌曲の旋律を転用しています。中間部は素朴でちょっと物憂げな旋律がバソン(ファゴット)から様々な楽器へ広がっていきます。

4曲 バレエ(Ballet
 弦楽器による躍動的でわくわくするような2拍子の主題は、教会旋法を使った懐古的なメロディーラインです。中間部は3拍子のワルツですが、すぐに冒頭の2拍子が戻ります。再びワルツとなり高潮して華やかに終わるコーダは、ピアノ原曲よりも1小節だけ長くなっています。

 『小組曲』が初演された1889年、パリにて万国博覧会が開催され、ドビュッシーはここでガムランなど世界各国の音楽に接します。そしてこれを機に彼は民族音楽の要素を自らの作品に採り入れるようになり、やがて『印象派』と呼ばれる作風に到達するのです。

 

(2015.09.06)


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