マーラー:交響曲第6番イ短調「悲劇的」
G.Mahler:Symphony No.6 in a-minor "Tragic"
「おおっと残念!もうちょっとだったのに・・・」
皆さんも一言でいうと、こういう曲です。試験や宝くじ、あるいは野球やサッカーの試合などで、あと少しのところで幸運や勝利を逃してしまったこと、ありませんか?一言でいうと、そういう曲なのです。
グスタフ・マーラー(1860〜1911)マーラーの交響曲はとにかく長く、ほとんどがです。またオーケストラの編成も、もステージに乗り切らないぐらいの大編成というのがほとんどです。こう書くと一見難解でとっつきにくく映るかも知れませんが、実はマーラーの交響曲の最大の魅力は、何を置いてもまず、歌曲やオペラにも共通した、ドラマティックな曲展開と迫力の中にも、まるでシューベルトの歌曲のような時に平易で親しみやすく、時に心を打つ美しいメロディがふんだんに盛り込まれ、共存していることがふんだんに盛り込まれていること。そして彼の残した11曲の交響曲の中でも、その特徴が最も顕著に現れているのが、この第6番『悲劇的』なのです。
オーストリア出身の作曲家グスタフ・マーラー(1860〜1911)は、この曲が作曲された1903〜4年ごろのマーラーは、ウィーン国立歌劇場の音楽監督としてオペラやコンサートで多忙な日々、家に帰れば従順な妻アルマとかわいい2人の娘、と、まさに・・・人生の絶頂期でした。よりによって、にも関わらず、そのような時期に、出来上がった曲は…。敢えてなどというこんな不吉な曲を作らなくても実は妻アルマも、「何でよりによって『悲劇的』なのよ…良いような気もするし(蛇足ですが翌1905年には「亡き子をしのぶ歌」も作曲しています)、事実、妻アルマは、そんな夫マーラーが信じられない!」とと周囲に洩らしていたようですに不満を持っていたようです(さらに翌1905年は「『亡き子をしのぶ歌』」を作曲しています)。さらには「マーラーはやがて自分の運命が暗転することを予言していた」と結論付ける専門家さえいます。でもよく考えるに、、でも私たちだって、気分が沈んでいる時は、口論や争いの場面がやたら多いサスペンスドラマはあまり見たくないのではないでしょうか?ですよね。そう、逆に言えば、マーラーは自身が精神的に豊かな時期であったからこそ、余裕を持ってハッピー・エンドに背を向けた音楽と対峙することができたのかも知れません。
さてこの曲、演奏に際しては実に40100人近く以上の管楽器奏者を必要とし(ちなみに古典派の交響曲であれば管楽器は10〜12人程度)、さらにオーボエやクラリネット等、相当数の管楽器には旋律を強調させるために楽器を持ち上げる「ベルアップ」という特殊奏法が頻繁に要求されます。加えて曲の様々な場面で効果的に登場するカウベル、むち、低音の鐘、ハンマー(大きな木槌)などの打楽器群。実にベルリオーズ以来の、常軌を逸した大編成です。とはいえ常に大音響が鳴り続けているわけではなく、時にヴァイオリンソロと木管楽器1〜2本、というようなコンパクトな組み合わせによる繊細なアンサンブルも織り込まれ、非常に山あり谷ありの起伏に富んだ音楽に仕上がっています。
初演は1906年5月27日にエッセンにて、もちろんマーラー指揮の下で行われましたが、初演を含め、生前は中間のその時は第2・第3楽章をは「アンダンテ→スケルツォ」、即ち作曲当時とは逆と逆順でした演奏していたことが多かったようです。その演奏順を支持する指揮者も多く、実は実は現在今日使わ使用されているオーケストラ用のパート譜もその名残でその流れを汲んで2・3楽章が逆順に印刷されており、実際そのように演奏することも少なくありませんが、本日いるのですが、本日は2000年校訂のの演奏国際マーラー協会版に従い、敢えて逆転せずに「スケルツォ→アンダンテ」の順にて演奏します。
第1楽章 Allegro
energico,ma non troppo
軍隊のような足取りが徐々に近づき、行進曲風の第1主題が提示されます。ティンパニの強烈なリズムに続き、トランペットやとオーボエによりる「長調→短調」へ唐突に暗転する和音のモティーフ動機が、全曲の統一テーマであり、全曲を統一するテーマです。ます。弦楽器に出てくるヘ長調の優美な第2主題は「アルマ主題」、つまり妻アルマのテーマです。中間部はその後テンポや曲想がめ目まぐるしく変化し、カウベルが遠くから響く、幻想的な場面へと展開します。先ほどの第1主題が回帰した後、コーダでは前半に出てきた色々なテーマが複雑に組み合わされて登場交錯し、最後は前述の「アルマ主題」を高らかに奏して華々しく終わります。
第2楽章 、Scherzo;Wuchtig(重々しく)
前の楽章の雰囲気を引き継いだ、暗く威圧的な殺伐としたスケルツォです。中間部は急にアットホームな雰囲気になり、木管楽器を中心としたアットホームで素朴なアンサンブルが、不規則な変拍子の中で展開します。これは仕事を終えて帰宅したマーラーが心を和ませたであろう、幼い娘の「よちよち歩き」の描写です。最後は幸せの絶頂から一気に奈落の底に落ち、失意と脱力感のうちに、曲はふっつりと途絶えます。
第3楽章 Andante
moderato
暫しの休息、といった感じのゆっくりした楽章で、マーラーの作曲した緩徐楽章の中でも屈指の名曲です。弦楽器による穏やかな旋律にイングリッシュホルンの物悲しいソロが続き、平穏な雰囲気の中にも一片の翳りが見え隠れします。天上の生活を髣髴とさせるチェレスタや角笛やカウベルが響き、やがて幸せな結末を祈るような熱いクライマックスを迎えたのちされ、やがて夢ははかなくの彼方へ消えていきます。
第4楽章 Finale;Allegro
moderato〜Allegro energico
チェレスタを従えた意味ありげな和音で開始されます。殺伐とした風景はやがて、長く激しい闘いの場面に繋がります。何度か勝利のチャンスが目の前に現れますが、もう少し、というところでいつも逸してしまい(途中2回、前述のハンマーが振り下ろされる瞬間)、結局勢い余って冒頭の主題の再現と共に、闘い挙句の果てには振出しに戻ってしまいます(冒頭の主題の再現)。そして最後の力を振り絞り、今度こそついに・・・…と思いきや、勝利を目前に最後止めの一撃を受け、遂に力尽きます。そして、最後にイ短調の強烈な和音がフェードアウトして途切れるととどめを刺し、演奏時間約80分の長大かつ波乱に富んだ満ちた交響曲が締めくくられます。
(2005.10.2)