マーラー:交響曲第4番ト長調
G.Mahler:Symphony No.4 in G-major
今やクラシックを聴かない人の間でも結構名が知られているグスタフ・マーラー(1860〜1911)。つい十数年前まではマーラーの演奏会など珍しかったのに、今ではアマチュアオケが競って採り上げるほどポピュラーな存在です。(ご多聞に漏れず、当オケもその類いです)
彼は11曲(正確には10曲半といったところでしょうな)の長大な交響曲を残していますが、その中でもこの第4番はひときわ異彩を放っております。まず完成までのプロセスですが、1892年に現在の第4楽章「天上の生活」が歌曲集「子供の不思議な角笛」の中の1曲として完成され、歌曲として単独に1893年初演。次に1896年、交響曲第3番を作曲した際、第7楽章としてこの歌曲を転用することが試みられましたが、結局この交響曲は全6楽章に落ち着き、「天上の生活」はボツ。それでもこの曲を交響曲のフィナーレとして使いたいという願望が捨て切れず、この曲のために3つのオリジナルな楽章が作られ、1900年ついに交響曲第4番が完成。全曲の初演後何度かの改訂を経て、ようやく本日演奏する決定稿が出来上がったのです。
またこの曲の楽器編成はマーラーの交響曲中最も小さく、トロンボーン・チューバは使われません。これはつまり、重低音楽器を削ることによって地に足がついているような安定感を排し、現実離れした透明な響きを得るためです。そして曲自体もマーラー特有の、あのどろどろした精神の葛藤は全く顔を出さず、まるで夢でも見ているかのような童話的な世界が展開していきます。
第1楽章 ゆったりと急がずに
木管と鈴のよるイントロに続き、弦楽器が親しみやすく幻想的な主題を奏し、ごく自然に夢の世界へトリップしてゆきます。もはや生々しい現実はそこには存在せず、トゥッティの盛り上がりもいたって爽やかに響き渡ります。そしてそのクライマックス直後のトランペット奏者に全員注目!同じ作曲家の他の交響曲に似たメロディを気持ちよさそうに吹いているはずです。
第2楽章 急がずに楽な動きで
2つのトリオを挟んだレントラー風スケルツォ。夢の国にて、死神がフィードルを弾いています。これは通常より2度高くチューニングされたソロバイオリンにて描写され、おどろおどろしくかつ調子外れな表現に成功しています。でもその不気味なムードの中に何故か、チャップリン風の人なつっこさ感じてしまうんですよね。皆さんもそう思いません?
第3楽章 やすらかに(ポコ・アダージョ)
冒頭のチェロに始まる美しいメロディが変奏曲風に繰り広げられます。楽園の中で瞑想に耽っているような楽章で、大自然の鼓動のようなピチカートが低弦から聞えてきます。時折オーボエが物悲しい旋律を奏し暗雲が立ちこめますが、突如として空は明るく冴えわたります。
第4楽章 非常になごやかに
前述の「子供の不思議な角笛」の中の「天上の生活」をテキストとした終曲。ソプラノ独唱は楽園に遊ぶ天使であり、作曲者により「子供のように明るく、無邪気に」歌うことが指示されています。前の楽章の一部が回帰し、全曲を巧くまとめています。天上の楽しい生活を歌い上げたのち、天使は再び空の彼方へ消えてゆき、この不思議な交響曲も終わりとなります。
とかく世の中はいろいろとしがらみも多いようですが、ここはひとつ浮世のことは一切お忘れになって、マーラーの夢世界へのしばしのトリップをお楽しみ下さい。帰ってくれば明日はクリスマスイヴ、そして新年ももうすぐです。
(1991.12.23)