R.シューマン:劇音楽「マンフレッド」序曲 Op.115
R.Schumann:"Manfred"Overture Op.115
今年が没後150年に当たるロベルト・シューマン(1810-1856)。彼の遺した数少ない舞台作品のひとつであるこの劇音楽「マンフレッド」はまさに創作の絶頂期にあった1848年から49年にかけて作曲されました。
劇詩「マンフレッド」はイギリスの詩人バイロンによる長大な戯曲で、主人公の青年マンフレッドがかつての恋人を死に追いやってしまった罪を抱えて悩み、アルプスの山中をさまよい続けた末、遂にその恋人の霊と再会し許しを乞うと共に自らも息絶える、という物語です。シューマンはこの戯曲のドイツ語訳テキストを基に場面等を再構成し、管弦楽・独唱・合唱・そして役者もしくは語り手による、序曲と15場の劇音楽を完成させました。初演は1853年6月13日ワイマールにてフランツ・リストの指揮で行われましたが、それから2年後、ハンブルクにて「マンフレッド」の演奏に接した若き日のヨハネス・ブラームスは、その斬新でエネルギッシュな音楽に感動し、そして自身の「交響曲第1番」の筆を進める決意を固めたといわれています。
本日演奏する序曲は、物語全体のエッセンスともいえる緻密な構成となっており、シューマン独特のナイーブでドラマティックな旋律に加え、否応なしにも物語の舞台となっているアルプスの雄大な自然を髣髴とさせます。これはシューマンがまだ学生だった頃、夏休みにスイスへ1人旅をした時に見たアルプスの雄大な山々の印象と、この劇詩に出てくる、マンフレッドがアルプスの山中をさまよう場面をオーバーラップさせていたのかも知れません。
序奏では短く不安定な導入に続き、オーボエが繊細で悲痛な主題を奏します。続く弦楽器が主部の主題を先取りして徐々にテンポアップすると、In leidenshaftlichem Tempo(激情的なテンポで)と書かれたソナタ形式の主部に突入します。弦楽器に木管楽器を重ねた独特の音色で、アルプスの山中をさまようような不安気な第一主題が提示され、祈るような長調の第二主題と交錯し、情熱的に展開していきます。最後は冒頭のオーボエの主題が回帰し、静かに息を引き取るように結ばれます。
蛇足ですが、この曲は「のだめカンタービレ」第8巻Lesson 41にて、千秋真一率いるR☆Sオケの初公演のオープニング曲として採り上げられています。その演奏会のメインは、前述の「『マンフレッド』がきっかけで作曲された」ブラームスの交響曲第1番という設定なのですが、そんなエピソードに基づいて曲を選んだのだとしたら、なかなかの芸の細かさです。ともあれ、R☆Sオケに勝るとも劣らぬ演奏をお楽しみください。(そもそも「R☆Sオケ」と「Hオケ」をどうやって比較するのかって?まあいいじゃないですか)