J.シュトラウス:喜歌劇「こうもり」序曲 Op.367
J.Strauss:"Die Fledermaus"Overture Op.367
歌劇(オペラ)は一部の例外こそありますが、まあ8割以上が悲劇で、登場人物の死などで暗く終わります。一方喜歌劇(オペレッタ)は文字通り、まず間違い無くハッピーエンドで楽しく聴ける話です。 ワルツ王として有名なヨハン・シュトラウス2世(1825?1899)は晩年、意外にもワルツやポルカから距離を置き、専らオペレッタの作曲に専念しました。
実は彼は1870年、母アンナの死去、続いて弟のヨーゼフに先立たれる…という相次ぐ身内の不幸に遭遇します。特に弟ヨーゼフとは「ピチカート・ポルカ」などの共同作品もあり、弟と同時に相棒をも失うことになりました。失意のどん底で、まったくワルツやポルカの筆が進まなくなったヨハンに、妻ヘンリエッタが言いました。
「元気出しなさいよ。楽しい話を考えながら、楽しい曲を作ればいいじゃない。あなた、オペレッタ書いてみれば?」
ヨハンは、この一言でハッとしました。数年前にオペレッタ「天国と地獄」「パリの喜び」などで成功していた作曲家オッフェンバックから「君も書けよ」と勧められていたのを思い出したのです。こうして彼は、自分自身が悲しみから立ち直るためだけではなく、皆も気軽に聴けてしかも底抜けに楽しいオペレッタを、立て続けに作曲したのです。
この「こうもり」の原作は、ドイツの劇作家ベネディクトゥスの『監獄』という物語をウィーンの大衆向けに翻案した台本です。1873年の冬、この台本を手にしてインスピレーションを得たヨハンは、別荘に1ヶ月こもって作曲に集中し、オペレッタの全曲を一気に書き上げました。
物語の設定は作曲当時の現代、場所は「とある都市近郊の温泉街」。筋書きは、かつて仮装舞踏会で酔っ払ったあげくこうもりの格好のまま路上に置いてきぼりにされ散々な目にあった「こうもり博士」ことファルケが、自分を落としいれた悪友アイゼンシュタインに復讐すべく仕組んだいろいろな「罠」が巻き起こす、どたばたの茶番劇です。こんなストーリーに、シュトラウスの音楽も、「雷鳴と電光」などの旧作を織りませ、親しみやすく、しかもサービス精神旺盛の音楽を付けています。
本日演奏するこの「こうもり」序曲は、ワルツ"Du und Du"(日本語では「おまえ同士」と訳されています。すっかり打ち解けた仲の例えで、いわば「俺とお前の仲」という意味です)を始め、ポルカやアリアなどの旋律がふんだんに引用されており、楽しい物語を予感させるような劇音楽のエッセンスとなっています。ちなみに前半で6回鳴らされる鐘の音は、アイゼンシュタインが自分が投獄される刑務所の所長とは知らずに、彼と意気投合し飲み明かしたときの、朝6時の鐘です。
(2001.6.3)