シューベルト/フランセ編:3つの軍隊行進曲D733(Op.51)(1987)

F.Schubert/Francaix:3 Millitary Marches, D733(Op.51)(1987) 


さあ、シューベルティアーデの幕開けです。寿司屋の鮪づくしならぬ「シューベルトづくし」プログラムの最初は、CMやゲーム音楽、あるいはピアノを習ったことがある人ならば一度は耳にしたことがある「軍隊行進曲」を、10人の管楽器奏者用に編曲した形で演奏いたします。原曲はピアノ曲ですが、実は1台4手のための連弾曲です。シューベルトは一時期、エステルハージ伯爵家の家庭教師として、2人の令嬢へピアノを教えていたことがあり、その際に教則本がわりに作曲されたピアノ曲のひとつであると伝えられています。軍隊行進曲と言いつつも、勇壮さは影を潜め、むしろ軽やかで人懐っこい印象を受けるのは、そのためです。

今回はこの3つの軍隊行進曲を20世紀フランス新古典派の作曲家でありピアニストでもあったジャン・フランセ(19121997)編曲の木管十重奏版により演奏します。フランセは晩年、その繊細で華やかな作風を活かしオリジナル作品に加えてショパン「24の前奏曲」の管弦楽版など、古今東西のピアノ曲の編曲に力を注いでおり、その中のひとつとして1987年に作られました。フランセがアレンジ先として着眼した「木管アンサンブル」というスタイルはシューベルトが活躍していた18世紀〜19世紀初頭にかけて流行していた「ハルモニームジーク」というリード楽器を中心とした管楽八重奏(オーボエ2、クラリネットもしくはイングリッシュホルン2、ホルン2、ファゴット2)の編成に極めて近く、さもシューベルト自身が編曲したように思えるほど違和感なく聴こえるかと思います。

とはいえ、編曲者としてのフランセは当時の「ハルモニームジーク」の復元を目指したわけではなく、編成はピッコロ1、フルート1、オーボエ2、クラリネット2ホルン2、ファゴット1、そしてコントラファゴット--つまりピッコロで最高音域、コントラファゴットで最低音域をそれぞれ拡大してあります。またホルンのゲシュトップ(ベル(朝顔)の中に右手を入れてこもった音色を出す奏法)などの特殊奏法を取り入れることで、フランセの独壇場であるフランスの色彩的でモダン、ちょっとユーモラスでへそ曲がり?な響きに仕上げています。そしてシューベルトの原曲はニ長調(最も有名な曲)、ト長調、変ホ長調の計3曲ですが、フランセは演奏効果を考慮し、ト長調→変ホ長調→ニ長調という順番に改めており、皆さまが聴き慣れている「軍隊行進曲」は3曲目、ということになります。

 さて、編曲者に関する蘊蓄話はここまで。あくまでも本日は、シューベルトづくしプログラムです。私たちのこの管楽アンサンブルは、シューベルトが生きていた時代のウィーンの街角を思い浮かべながらお聴きいただければ幸いです。

(2012.5.19)


もとい