ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」組曲(1919年版)
I.Stravinsky:"Firebird"Suite(1919 Version)
ロシア出身の作曲家、イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882〜1971)。彼の作風は一言で言えば・・・・否、とても一言では表現できないですねえ。確かに生まれはロシアなのですが、時にフランス印象派風、さらにイタリア・バロック風の新古典主義やシェーンベルクの12音技法に手を染めたり、ジャズの手法を採り入れたり・・・・と、作風が二転三転しているのです(敢えて一言でまとめると「カメレオン」?)。そんなストラヴィンスキーの膨大な作品群の中でも最も有名で、かつ祖国ロシアの色がもっとも色濃く反映されているのがこの「火の鳥」です。
ストラヴィンスキーはディアギレフ率いるロシア・バレエ団の依頼で何曲かバレエ音楽を作曲していますが、1910年に初演されたこの「火の鳥」は第1作目で、独創的なリズム感覚と作曲技法、さらには師リムスキー=コルサコフの流れを汲むロシア的な叙情性が高く評価され、当時28歳の彼は一躍全世界から脚光を浴びることになります。その後作曲者自身により3種類の組曲が作られましたが、今回演奏する1919年版はバレエ中の重要なシーンこそ一部欠けるものの、編成・演奏時間ともに最もコンパクトにまとまっており、演奏しやすくなっています。
1 序奏〜火の鳥の踊り〜火の鳥のヴァリアシオン
狩に出た王子イワンは、獲物を追うのに夢中になった余り、魔王カスチェイの支配する庭の中に迷い込みます。地の底から湧き出るような重低音、トロンボーンの不思議な二重奏、フレーズの断片が飛び交う木管楽器群、特殊奏法(弱音器を付けてグリッサンド)による弦楽器・・・などといった現実離れしたサウンドが、不気味さを醸し出しています。
イワンは黄金のリンゴの木の近くを飛んでいる火の鳥を見つけ、その美しさに魅せられ、追いかけて捕獲します。そしてこの場を逃がしてほしいと哀願する火の鳥を可哀想に思ったイワンは、とりあえずの獲物の印として火の鳥の「魔法の羽」を1本抜いただけで、再び放してあげます。
2 王女たちのロンド(ホロヴォード舞曲)
魔王に捕らわれた王女たちが、黄金のリンゴの木の周りで戯れています。イワンはそこに駆け寄り、王女の1人、ツァレーヴナと恋に落ちます。そして、彼女らは夜が明けるとまた魔の宮殿に帰らねばならないこと、そして魔王に捕まったが最後、石にされてしまうことを知らされます。
曲中、オーボエとハープで奏される印象的な主題は、ホロヴォードと呼ばれる古いロシア舞曲です。そして夜が明け始め、名残を惜しみつつ、王女たちの姿は遠ざかっていきます。そしてイワンは宮殿への潜入を試みますが・・・
3 カスチェイの凶暴な踊り
宮殿に突入するや否やイワンは捕えられ、魔王カスチェイの前に連れ出されます。そして石にされそうになったその時、イワンは火の鳥からもらった「魔法の羽」のことを思い出し、意を決してひと振りし、難を逃れます。そして先ほどの火の鳥が恩返しに戻ってきました。さあ、反撃の始まりです!火の鳥の魔法で、カスチェイとその家来は自分たちの意思とは関係なく、激しい踊りを強要され続けます。
4 子守歌
疲れ切ったカスチェイたちは倒れこんでしまいます。ここで火の鳥がロシア民謡風の子守歌を歌います(ファゴットとオーボエのソロ)。そして彼らがぐっすり眠りこんでしまった隙に、イワンはカスチェイの「魂」である卵を見つけ、叩き割ってしまいます。これで、カスチェイはもう起きてきません。
5 終曲(フィナーレ)
カスチェイの魔法は全て解け、石となった捕虜たちも、捕らわれの王女たちも、皆元通りになりました。弦楽器の静かなトレモロにのり、ホルンが平和の訪れを告げます。宮殿から出てきた王女ツァレーヴナとイワンはお互いを見つけて駆け寄り、抱き合います。
金管楽器の登場とともに、婚礼の場面です。永遠の愛を誓うイワンとツァレーヴナを祝福する人々。そして「これにて一件落着」と、火の鳥は彼方に飛び去って行くのでした。
(2003.11.30)