シベリウス:交響詩「フィンランディア」Op.26

J.Sibelius:"Finlandia"Symphonic Poem Op.26 



 
 音楽は、常に時代を反映するものです。しかし、ときには逆に、時代を音楽が変えてしまうという珍現象が起きたりもします。この「フィンランディア」は、シベリウスがこの曲を書かなければフィンランドという国は存在しなかったというくらい、当時の社会を大きく揺さぶった曲です。
 時は今からちょうど100年前、19世紀も末のことです。当時のロシア皇帝ニコライ2世によりフィンランドは自治権を取り上げられ、民衆はロシア軍の傍若無人な圧力に日々苦しんでいました。そんな中で祖国を愛する人々によりフィンランドの歴史を描いた演劇「いにしえからの歩み」上演の話が持ち上がり、この劇の付随音楽が、当時交響曲第1番の成功で一躍有名になったシベリウスに委嘱されました。そして1899年11月にこの劇と共に全6曲の付随音楽がヘルシンキで初演され、感動を呼ぶ終曲が特に大好評でした。そして観る側も演る側も、皆祖国への熱き想いを新たにしたのです。この終曲は「スオミ」(フィン語でフィンランドのこと。そうです、オリンピックやワールドカップの応援で”Japan…”というアナウンスが入ってもなお、諸外国の前で胸を張って「ニッポン!」と叫び続ける感覚です)と名づけられ、翌1900年のパリ万国博覧会では独立した1つの交響詩として初演されました。
 この話がロシア皇帝の耳に入ったのだから、もう大変です。すぐさま弾圧は入りました。もちろん「スオミ」は即刻演奏禁止。そして「スオミ」の名がある演奏会には片っ端から取り締まりが始まりました。ところが今度は名前を変えて、同じ曲をまた上演。また弾圧。しばらくはこの繰り返しでした。その間、フィンランドの独立運動は収まるどころか一層盛り上がっていきます。そしてこの曲の中間部にある美しい旋律にはいつの間にか歌詞が付き、「フィンランディア(フィンランド賛歌)」として合い言葉のように歌われました。ヨーロッパ諸国においても「フィンランディア」上演が大成功したばかりか、それによりフィンランド独立運動自体も肯定され、かくしてロシアの立場は徐々に追いつめられていきました。やがて第1次世界大戦が始まり、ロシア革命が起こった1917年、遂にフィンランドは独立を宣言することができたのです。
 曲は低音楽器によるうめくような和音で始まり、木管楽器や弦楽器の祈りの旋律が続きます。そしてロシア軍の銃撃や爆撃を思わせる金管楽器のリズムや低弦のうねり、しかしやがて形勢はフィンランド側に好転し、As-dur(変イ長調)の軽快な主部に入ります。中間部は木管と弦のコラール。ここが歌詞のついた部分で、その歌詞を用いて合唱付きバージョンで演奏することもあるくらいです。主部が再現したのち、全員で先ほどのコラールを高らかに奏して力強く終結します。
 

(1998.7.25)


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