シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
E.Chabrier: "Espana"
本日の演奏会、まず1曲目は情熱の国スペインへご案内します。灼熱の太陽、底抜けに明るい人達、そして賑やかな舞曲の数々。…とはいうものの、この曲を作曲したエマニュエル・シャブリエ(1841〜1894)はスペイン人ではなくフランス人です。シャブリエの名前を初めてお聞きになった方も多いことと思いますが、それも無理もない話で、発表した曲自体が非常に少ないのです。で、その数少ない作品の中でもこの狂詩曲「スペイン」と、酔って騒いで朝帰りする帰り道で曲想を思いついたといわれている「楽しい行進曲」は非常に有名で、しばしば演奏会でも採り上げられます。
1841年に南フランスのオーヴェルニュで生まれたシャブリエは子供の頃からピアノや作曲に興味を示し、当初は音楽大学に進むことを希望していました。しかし父親は彼が音楽家になることに大反対で、仕方なく父親の方針どおりパリの大学で法律を学び、フランス内務省に就職します。しかし音楽家への夢をどうしても捨てきれない彼は、公務員生活を送る傍らガブリエル・フォーレやヴァンサン・ダンディなど著名な作曲家と親交を持ち、コツコツと独学で作曲の勉強を続けます。そして満を期した1880年、彼は内務省へ退職願を出しまし
た。シャブリエ39歳、作曲家としての本格的デビューです。
さて、1882年の夏から秋にかけて、「脱サラ」して自由な時間を得たシャブリエは友人に勧められるまま、夫人を伴いスペインを旅行しました。その旅行先で、情熱的な民族舞曲や奔放なジプシー音楽に出会い、感動を覚えた彼はそれらを夢中で五線紙に書きとめます。素晴らしい土産を手にすることが出来たシャブリエは、帰国後、つれづれなるままにその思い出を曲にまとめました。それがこの狂詩曲「スペイン」です。
弦楽器の歯切れ良いピツィカートで始まるこの曲は、スペインの舞曲の一種「ホタ」(最初のファゴット)や「マラゲーニャ」(ヴァイオリンによる伸びやかな旋律)といった独自のリズムをふんだんに取り入れ、フランス人シャブリエならではのお洒落でおおらかな味付けにより、スペイン舞曲の豊かな色彩感とカラッとした味わいを持った曲に仕上がっており、初演当時から熱狂的な人気でした。
シャブリエは作曲家として再出発してわずか14年後の1894年、53歳にして早世しています。彼の発表した曲が少ないのも、無理のない話かも知れません。でもこの「スペイン」の成功により、一公務員に過ぎなかったシャブリエは作曲家シャブリエとして、音楽史に永遠に刻まれることになったのです。
(2000.2.6)