ラヴェル:古風なメヌエット
M.Ravel:Menuet antique
「古風なメヌエット」(1895年作曲)はラヴェルとって最初に出版された作品、いわばデビュー曲と言えましょうか。この曲を作曲当時のラヴェルは弱冠20歳、まだパリ音楽院の学生でした。
ご存知の通り、「メヌエット」という形式は中世のフランスで起こった3拍子の舞曲ですが、敢えて表題に「古風」という言葉を加えている・・・一見保守的な作品のような印象を受けますが、それはあくまでも曲の雰囲気だけであり、主題はもちろん過去の作曲家の引用ではないし、メロディのひねり方や和音の重ね方など、従来のお決まりのパターンには収まらない、ラヴェル独自のコンセプトが随所に認められます。
マエストーソ(堂々と)にて始まる嬰ヘ短調の主部は、元来メヌエットが持っている優雅な雰囲気というよりも、むしろ地味で素朴な印象すら受けます。とはいえ、ラヴェル特有のお洒落で洗練されたスタイルは既に確立されており、さらにオーケストラに配置したことにより主旋律や対旋律が明確に浮かび上がり、陰影のある立体感が加わりました。中間部は長調に転じてほんの少しだけテンポが上がり、木管楽器とホルンを中心としたアンサンブルが展開します。また2回登場するオーボエのソロの裏では、冒頭の主題がバスーンにより顔を覗かせます。ラヴェルは管弦楽版編曲にあたり、細部のダイナミクス(強弱記号)を見直すと共に、この中間部に対し大幅に手を加えました。まず小節数を全32小節から56小節に拡大し、次にトロンボーンやトランペットの信号ラッパ風のフレーズを追加しています。これらはピアノ原曲にはない、全く新たなコンセプトです。そして主部がほぼ同じ形で回帰し、最後はテンポをぐっと落とし、弦楽器のピチカートに導かれた管楽器のffの和音が残って終わります。
1929年、晩年のラヴェルは自分のいわば出発点である「古風なメヌエット」を管弦楽曲に編曲することを思い立ちます(今回演奏されるバージョンです)。この後彼は2曲のピアノ協奏曲と若干の室内楽伴奏歌曲しか作曲しておらず、実質上「古風なメヌエット」が最後のフル・オーケストラ作品となりました。つまりこの曲は作曲家ラヴェルの始まりであり、終わりでもあるのですね。
(2004.12.19)