ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」Op.9

H.Berlioz::"Le Carnaval Romain" Overture Op.9 


 本日の1曲目は、当団初となるベルリオーズです。エクトル・ベルリオーズ(18031869)といえば、あの『幻想交響曲』のドラマティックで激しい感情表現で想像できるとおり、大恋愛あり、心の病あり、大怪我ありなど、波乱万丈の人生を歩みました。そして作曲者であることに加え指揮者、音楽学者としても成功し、いずれもずば抜けた才能を十分以上認められていた一方で、自身の音楽や発想の斬新さと思い入れの激しさゆえに周りから常にバッシングを受け、苦労が続いた人でもあります。本日演奏する序曲『ローマの謝肉祭』は演奏会用の独立した管弦楽曲ですが、その背景には歌劇『ベンベヌート・チェッリーニ』(1838)の存在と密接に関係しています。このオペラはベルリオーズ版『マイスタージンガー』とも言うべき、中世ルネサンス期のイタリアの彫金職人ベンベヌート・チェッリーニ(15001571)のサクセスストーリーを基にしたベルリオーズの意欲作ですが、演奏の困難さゆえにリハーサルが間に合わず、特に劇中の謝肉祭シーンでは練習に立ち会ったベルリオーズから「もっと速く!」を連発され、指揮者も楽員もそのテンポ指示について行けず辟易していたようです。そのこともあって初演は上手くいかず、歌劇『ベンベヌート・チェッリーニ』の公演は打ち切られます。しかしベルリオーズは初演こそ失敗したものの作品そのものには絶対的な自信を持っており、後の1844年にこの歌劇から主題を転用して、新たな演奏会用序曲を作曲することにしました。それがこの『ローマの謝肉祭』です。
 曲はサルタレッロ(イタリア舞曲のひとつ)のリズムに乗って華やかに始まり一旦落ち着いた後、オペラ第1幕で歌われる愛の二重唱(テレーザ、命よりも君を愛す)の旋律がコールアングレ(イングリッシュホルン)で歌われます。そして徐々にお祭りの期待感が高まり、そして冒頭のサルタレッロのテンポに戻って熱狂的な謝肉祭のシーンが始まりますが、オペラ初演時に問題となった3/8拍子のサルタレッロは6/8拍子に改められ、テンポを安定させることで少しだけ難易度を調整してあります。そしてタンバリン奏者2名を含む打楽器群も加わり、目まぐるしい転調やフガート(小規模なフーガ)を盛り込みつつ、澱むことなく終結部へと突き進みます。
 ちなみにこの『ローマの謝肉祭』の演奏会初演時は、リハーサルがほとんどできませんでした。オペラ初演時に苦労した噂を聞いて恐れをなしたオーケストラの管楽器奏者が、軍楽隊のエキストラにかこつけて逃げ出したのが原因でした。そして止む無く「ぶっつけ本番」となってしまった初演の直前に、ベルリオーズは楽員へこう告げました。

「大丈夫です。全ての情報は楽譜に書いてあります。優秀な皆さんならば、指揮を見て、休みを正確に数えて、そのとおり演奏すればうまくいきます」

…この言葉どおり、初演は大成功でした。その後、歌劇『ベンベヌート・チェッリーニ』も改訂が加わり、現在ではこのオペラの上演時にも、第2幕への序曲として『ローマの謝肉祭』が演奏されます。

(2018.01.27)


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