グノー:交響曲第2番変ホ長調

C.Gounod:Symphonie No.2 en Mi bemol majeur


 

今年で生誕200年を迎えるシャルル・グノー(18181893)。「フランス近代歌曲の父」と呼ばれているグノーの音楽の最大の特徴は、何といってもあの『アヴェ・マリア』に代表される、平易で美しく、どこか懐かしい旋律。和声ではなく旋法が中心になって発達したせいか、フランスの作曲家には素晴らしいメロディーメーカーが多く、グノーはまさにその筆頭に挙げられます。パリ音楽院卒業後イタリア留学を経て教会のオルガニストや合唱団の指揮者を歴任したこともあって、主に声楽曲やオペラを中心に膨大な作品を遺していますが、本日はそんなグノーの交響曲を演奏します。

グノーの交響曲は断片のみの第3番や9本の管楽器のための『プチ・シンフォニー(小交響曲)』を除くと2曲あり、いずれも代表作である歌劇『ファウスト』(1859)をはじめとする一連のオペラで成功を収める前の時期に作曲されています。この交響曲第2番も、作曲当時のグノーは既に38歳ではあったものの、各楽章の構成やオーケストレーションには、明らかにベートーヴェン、モーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーンといった先輩作曲家の影響が少なからず見受けられます。しかしながら、それらは単なる習作の範囲に留まらず、ドイツ・オーストリア系の堅実な枠組みを守りつつ、そこへシンプルで親しみやすいメロディーを組み合わせられるのは、やはりフランスの作曲家グノーの個性であり、この交響曲の最大の特徴となっています。

1楽章 アダージョ〜アレグロ・アジタート 変ホ長調

 伝統的なソナタ形式に則った堂々たる序奏に続く主部は、変ホ長調かつ速い3/4拍子、そして力強い第1主題は明らかにベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』を意識しています。そして透明で流れるような第2主題。繰返しを経て、展開部はこれらの主題を縦横無尽に展開させ、その勢いは再現部も衰えることなくコーダ(終結部)まで続きます。

2楽章 ラルゲット・ノン・トロッポ 変ロ長調

 「ラルゲット」とはアンダンテ(歩く速さ)とラルゴ(遅く)の中間に位置し、アダージョ(緩やかに)よりは少し速めのテンポ設定なのですが、序奏に続く弦楽器による主旋律、木管楽器の合いの手など、聞こえてくる音楽は明らかにあの『第9』の「アダージョ」楽章を彷彿とさせます。その後の変奏は、モーツァルトの交響曲第40番の緩徐楽章にも似た細かい音符の動きが印象的です。

3楽章 スケルツォ アレグロ・モルト ト短調

 メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』あるいは後のデュカスの交響詩『魔法使いの弟子』を連想させる、ミステリアスさを秘めたスケルツォです。トリオ(中間部)はト長調に転じ、今度はベートーヴェンの交響曲第1番の類似箇所を模倣した木管楽器のコラールが、弦楽器の流れるようなオブリガートを纏いつつ進行します。

4楽章 フィナーレ アレグロ・レジェーロ・アッサイ 変ホ長調
 ここでグノーはベートーヴェンのオマージュから敢えて離れ、がっつり重いフィナーレではなく、弦楽器の細かい動きが特徴的な、シューベルトもしくはメンデルスゾーン風の軽快な終楽章を据えます。提示部繰り返し付きのソナタ形式こそ堅実に守っているものの、次から次へと沸き出ては広がっていく自由で伸びやかな旋律は、まさにグノーの独壇場ではないでしょうか。そして明るく軽快な曲調は澱むことなく、喜びの絶頂で明るく颯爽と締めくくられます。


とはいえ…やっぱりパクリじゃん。
まあ、そんな感想を持たれる方がいらっしゃるのも無理ないかと思います。正直、筆者もこの曲に出会った時の第一印象はそれでした。しかし練習が進み、曲中に潜むベートーヴェンやメンデルスゾーンなどの「影」をあれこれ探しているうちに、気付いたらドイツ・オーストリアの様式美とフランスの旋律美が組み合わさったこの曲の魅力にすっかりのめり込んでいました。 そういうわけで、繰り返しを含め演奏時間約40分の「ドイツ古典風のフランス音楽」をお楽しみいただけると幸いです。 


(2018.1.27)
 


もとい