フォーレ:『マスクとベルガマスク』組曲
G.Faure:"Masque et Bergamasque" Suite
ガブリエル・フォーレ(1845-1924)は、ベルリオーズに始まるフランスのロマン派の流れを汲みつつ、ドビュッシー、ラヴェル以降大きく開花する近代フランス音楽への先導者の役割を果たした作曲家です。その作風はベルリオーズのような激しさやサン=サーンスのような華やかさこそ少ないものの、繊細で落ち着いた雰囲気と美しい旋律に満ち溢れた声楽曲や室内楽曲を数多く残していますが、実は管弦楽曲にも名曲を遺しており、中でも『パヴァーヌ』Op.50、シシリエンヌ(シチリア舞曲)で有名な『ペレアスとメリザンド』Op.80、ついで本日演奏する『マスクとベルガマスク』Op.112などは、世界各地のオーケストラの主要なレパートリーとなっています。
さて、劇音楽『マスクとベルガマスク』は、元々はモナコ皇太子アルベールT世から師匠のサン=サーンスを介して劇音楽の委嘱を受けたフォーレが、かつて歌劇『ペネロープ』の台本を手掛けた脚本家ルネ・フォショワと再びタイアップし、中世の王侯貴族が仮装役者を呼んで催した「艶なる宴」を題材にした1幕のコメディア・デラルテ(イタリア喜劇)として共同制作したものです。フォーレはここで歌曲やピアノ曲等、過去の作品から選りすぐったものを中心に全8曲(『序曲』『パストラル』『マドリガル』『いちばん楽しい道』『メヌエット』『月の光』『ガヴォット』『パヴァーヌ』)を組み合わせ、最終的にテノール独唱と混声合唱を伴う管弦楽曲としてまとめられました。原曲の作曲年代はまだ若かりし頃の習作から晩年の書き下ろしまで広範囲に亘っており、さながらフォーレの音楽のハイライト的な作品となっています。初演は1919年にモンテカルロにて舞台上演されました。
なお標題の『マスクとベルガマスク』は5曲目『月の光』のテキストとなっているヴェルレーヌの詩の、こんな一節から採られています。
「君の心は選り抜かれた一つの風景画だ。人々は華やかなマスク(仮面)とベルガマスク(イタリア北部の民族衣装)を纏い、リュートを弾き、踊りながら歩いている。でもその仮面の下は皆、悲しい表情をしている…」
そして物語はこの詩のとおり、マスクをしたアルルカンや、ベルガマスクをまとったコロンビーナなどの仮装役者たちにより面白おかしく、さりげなくかつての王侯貴族を風刺するような内容となっています。なお本日は、作曲者自身により編纂された演奏会用組曲(声楽付きの曲および既に出版されていた『パヴァーヌ』を除いた全4曲)を演奏します。
第1曲 序曲 へ長調
原曲は4手ピアノのための『交響的間奏曲』(1869)ですが、この曲は管弦楽のための組曲(交響曲)Op.20(1873)の終楽章にも転用されていたものです。モーツァルトを想起させる単純明快で、楽しい物語の展開を予感させる序曲です。
第2曲 メヌエット ヘ長調
原曲は同名のピアノ曲です(作曲年代不明)。フランスの田舎を彷彿とさせる素朴な踊りで、トリオ(中間部)は管楽器の武骨なユニゾンと弦楽器の典雅な合奏が対話を重ねます。
第3曲 ガヴォット ニ短調
原曲は同名のピアノ曲(1869)で、第1曲同様、管弦楽のための組曲(交響曲)Op.20の第3楽章としても転用されています。ちょっと田舎風で荒々しい主部に続き、中間部では流れるような弦楽器に時折木管楽器による合いの手が入り、また主部が再現して終わります。
第4曲 パストラル(田園曲) ニ長調
前述の劇音楽全8曲中、唯一新たに書き下ろされた曲で、ところどころに第1曲(序曲)の主題を引用しています。全曲上演の際は序曲に続いて2曲目として演奏されますが、組曲版では敢えて順番を変えて終曲に持ってくることで、冒頭の主題を回帰させ全体の統一感を醸し出しています。浄化されたリリシズムと幸福感の中で、名残を惜しむように静かに終わります。
(2016.6.18)