フォーレ(ラボー編曲):組曲『ドリー』

G.Faure:"Dolly" Suite


当団の重要なレパートリーとなっているガブリエル・フォーレ(1845-1925)。第1回定期(『ペレアスとメリザンド』)、前回「フランス音楽の午後」(『マスクとベルガマスク』)に続いて今回は組曲『ドリー』を取り上げることになりました。

 フォーレが親しくしていたバルダック家の令嬢エレーヌ(通称ドリー)。フォーレ自身はこのバルダック家を訪問する度に、幼いドリーと遊ぶことをいつも楽しみにしていました。そしてドリーの誕生日に向けて1曲ずつピアノ連弾のための小曲を作曲し、毎年それを彼女の誕生日にプレゼントしてきました。そしてその6曲を組曲として再構成し、出版されたのがこの組曲『ドリー』です。そのため、おそらく家族で連弾して楽しむことを想定したのでしょうか、どの曲も平易でかつアットホームな雰囲気が支配しています。

本日は1906年にアンリ・ラボーによって編曲された管弦楽版で演奏いたします。

第1曲 子守歌(1893年作曲)

 ゆりかごに揺られるようなリズムに乗り、木管楽器により素朴な子守歌が歌われます。中間部はハ長調に転じた後、最初の旋律がホルンに再現されます。眠りを誘う曲なので、お聴きの皆様は本当に寝てしまわないように…いえ、まあその時はその時で。

第2曲 ミ・ア・ウ(1894年作曲)

 軽快なワルツ。ドリーには、お兄さんのラウル君がいました。しかしどうしても「お兄ちゃん!(ムッシュ・ラウル!)」とうまく言えず、それをフォーレが曲のタイトルに盛り込みました。その後全曲をまとめた時に「ミ・ア・ウ」という標題に修正し、猫のワルツとして出版され現在に至っています。確かにコーダで一瞬登場する弱音器付きのホルン四重奏は、猫の鳴き声にも聞こえなくもありませんね。

第3曲 ドリーの庭(1895年作曲)

 ドリーの部屋から見える庭を描写したものであろうか、花の咲く庭を彷彿とさせる美しい曲。フルートや弦楽器による優しい旋律、中間部に現れる物憂げなチェロの主題。その背後では、ハープが静かに見守ります。

第4曲 キティ・ワルツ(1896年作曲)

もともとはバルダック家の飼い犬ケティを題材にしたフォーレ版『仔犬のワルツ』なのですが、どういうわけか出版時にキティと直されて現在に至っています。とはいえ下降音型を使った主題は甘えてくる猫の鳴き声を彷彿とさせるし、まあ猫でもいいか、という気にさせてくれます。

部屋のあちこちをころころと走り回り、居心地のよさそうな日溜まりを見つけて横になって・・・おやおや、そのまま寝てしまいましたね。

第5曲 やさしさ(1896年作曲)

弦楽器により静かに開始されるノクターン(夜想曲)。その旋律の頂点に向けて3本のトロンボーンが静かに加わりますが、和音を支えるための「影の立役者」に終始徹します。中間部のオーボエとホルンによるカノン風の二重奏は、あたかもとりとめもない話に優しく耳を傾け、相づちを打っているようにも聞こえます。そして会話も途切れがちになり、夜も更けていきます。

第6曲 スペイン風に(1897年作曲)

しっとり系の地味な曲が多いフォーレには珍しく、カラッとした華やかな曲です。狂詩曲『スペイン』を作曲したシャブリエの影響か、スペイン風の明るく生き生きしたリズムをふんだんに活用した楽しい曲となっています。編成には、先ほどのトロンボーンに加え、それまで沈黙していたトランペットや打楽器群も加わり、終曲を盛り上げます。

ちなみにドリーのお母さん、エンマ・バルダックはその後いろいろあってドビュッシーの夫人となり、一人娘(シュウシュウ)を設けます。そしてドビュッシーが愛娘のために作曲したのが、あの『こどもの領分』なのです。フォーレは直接不倫騒動に絡んでいるわけではありませんが、こどもに対する純粋な愛情の詰まった全6曲をお楽しみください。



(2017.5.27)
 


もとい