デュパルク:夜想詩曲『星たちへ』

H.Duparc:Aux Etoiles



アンリ・デュパルク(1848-1933)。もしかしたら今回のプログラムの作曲家4人の中で、もっとも一般に知られていない作曲家なのかも知れません。デュパルクはフォーレとほぼ同世代で、85歳まで長生きしたにも関わらず、遺された作品は歌曲や室内楽を中心に極めて数が限られたものとなっています。これには理由があるのです。

デュパルクはセザール・フランク(1822-1890、ベルギー出身ですがフランスを中心に活躍した作曲家です)の、いわば一番弟子であり、フランクを中心とした19世紀フランス音楽の一派、いわゆる「フランキスト」のひとりです。そして師匠のフランク同様、フランス音楽に軸足を置きつつも、ワーグナーやドイツ・ロマン派の影響も多分に認められた作品を遺しています。そうだとしたら、ブラームスばりの交響曲やワーグナーのようなオペラも…と思いきや、理想が高かったのでしょうか、デュパルクはそのような曲を作りかけては破棄を繰り返した末、とうとう1曲も遺さなかったようです。そして歌曲が17曲、ピアノ曲3曲、チェロソナタ1曲、宗教曲(モテット)1曲、管弦楽曲が3曲…

1885年。ここでテュパルクのディスコグラフィは、突如として途絶えます。原因は心の病(神経衰弱)。急激に創作意欲が衰え、作曲の筆が進まなくなったのです。デュパルクはパリを離れてスイスへ移住し、そこでは一切創作活動は行わず、せいぜい趣味で絵を描く程度の隠遁生活が、彼が85歳で亡くなる1933年まで続きます。

つまりデュパルクの作品は若いころに作曲されたものばかりであり、さらにその中でも自己への強い批判精神により後世に遺す作品を選りすぐっていました。現在私たちが耳にすることができる作品が非常に少ないのはそのためで、その分、デュパルクの作品はどれも美しく抒情的で、フォーレを始めとした19世紀末〜20世紀初頭のフランス音楽には、明らかにデュパルクの影響が認められます。

本日演奏する夜想詩曲『星たちへ』は、彼が遺した管弦楽曲3曲のうちの一つで、1874に作曲されました。曲はLent et doux(ゆっくり、心地よく)、3/4拍子、ハ長調。リズムを刻むホルンと弱音器を付けた弦楽器により開始され、やがて徐々に星の瞬きがオーケストラ全体に広がります。終始穏やかで柔らかい響きが支配し続けたのち、平穏に、そして静かに曲が結ばれます。


(2016.6.18)
 


もとい